2012年03月18日

現人(うつせみ)

 長い間の空白をお許し下さい。
今回は、皆さまへ、先ずはご無沙汰の失礼をお詫び申し上げます・・・・

 3月15日、約五ヶ月に渡る長期の日本滞在から、ドイツの自宅に帰りました。
日本もだいぶ春めいておりましたが、北ドイツは驚くほどの暖かさで、真冬こそ終っているとは想像しておりましたが、拍子抜けするほどの暖かさに(気温18度)肩透かしを食わされるような具合でした。

 昨年11月の回顧展を無事終了し、それまでの疲れが一気に出てしまったのか、まるで、世に言う「燃え尽き症候群」のような具合になってしまい、お恥ずかしい限りですが、無力感と体調を崩してしまい、だらだらと年明け、2月中旬までを最低限の用件をこなすことのみで、休養とほとんどの時間を群馬自宅に山籠り状態で居りました。

 ようやく、気力体力を取り戻して、あの3月11日を日本で迎える事と成りました。

 何一つ、変わっていない・・・日本の早春。

 それでも、花は咲く・・・

 柔らかい日差しに包まれ、穏やかに光り輝く庭に、小鳥達がさえずり、福寿草は、小さな春の使者のように、金木犀の太い幹の根元にひっそりと微笑んでいました。

 古木の様相の白梅は、東京文京区千駄木の庭から移植して、もう樹齢七十年は越えましょうか、巷(ちまた)の梅が満開の頃に一歩遅れて、一輪、また一輪と咲く昔どおりの流儀で、久々の主の目線に恥ずかしがるような、静かに語りかけるような、慎ましく、美しい姿を見せてくれました。

 父の大好きだった本紅梅は、いまだ固い蕾のままでしたのが、少し残念に思われましたけれど、もう十年以上、早春の日本に居た事のない私には、久々の冬から春への時の流れを、弱った心と身体ながら、じっくりと味わうことが叶って、怪我の巧妙だったようにも思うのです。

 日本の人々が、あの3月11日から、不安と日々の方便(たつき)との相克の中での一年の約半分を、私は母国で過ごす事となりました。
昨年10月、飛行機から降り立った時の自分を振り返りますと、現在の自分自身の心の在り方に大きな変化があることを感じております。

 私は、紛うことなく日本人で、日本をこよなく愛し続けてきました、日本の地に在ってこそ、自分自身で居られる・・・たったそれだけの当たり前のこと。
日本を出て、ヨーロッパの大地で約18年程を生きて、もうこれ以上はヨーロッパの大地では暮らして行けないかもしれない・・・日本人として、私自身として、竹林の間近で、竹工芸や日本美や、人々と、日本時間の中で共に、日本の行く末を見守りながら、暮らして行きたい・・・

 今、切実に心の底から、そうしたいと思っております。

 こんな風にはっきりとした思いに到ったのには、いくつかの理由があったのだとは思うのですが、その一つには、ここ数年何故か、日本の神々について思いを致してきたことがあるのかもしれません? 飯塚家の竹工芸について考え続けている内に、古事記に始まる日本の神々を外しては、竹工芸の根幹に迫ることは出来ないのかもしれないと、おぼろげに思い始めておりました。改めて日本の神話を紐解くのは、なかなかに難しく、少しずつ、少しずつ、書物や、祖父琅玕齋の言葉などに導かれ、まだまだ初歩の段階にあるのが実情です。

 本年初頭、元旦には群馬県太田市金山の頂上の新田神社に詣でました。静かな薄曇の柔らかい空気の中、穏やかな初詣となりました。
また、1月8日、松の内は過ぎておりましたが、思い立って、秩父三峰神社へも、詣でて参りました。三峰神社は、日本武尊(やまとたけるのみこと)が、この国の平和を祈り、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)、伊邪那美命(いざなみのみこと)の二神を祀ったことを起源としており、三峰山の頂上にある厳かな神社です。

まさしく、神はここに御座す(おわす)・・・身体の底からそれを感じました。

樹齢八百年といわれる老杉は、どこまでもどこまでも天を突き刺し、静かに木肌に触れてみると不思議な鼓動が天から我が身に流れ来るような気持ちが致しました。本殿の上、澄み切った空には、まるで龍神としか見えない蛇行した雲が私を見下ろしておりました。

 理屈では計り知れない何かを、この身に受けて、半ば呆然として帰途に着いたことを今も強烈に覚えております。

 その数日後から、風邪をこじらせ高熱で十日ほど、たった一人自宅に籠ることとなったのですが、「ふうじゃ」といわれる風邪の熱に、幾つもの夢にうなされ、何か身体からたくさんのよこしまなものが噴き出して、どんどん、自分が本来の自分に還って行く様な思いが致しました。

 少し痩せて、心もとない身体の奥から、「日本へ戻りなさい」という声を聞いたように思いました。

 私は、日本の空気の中に戻ろうと、今決意しております。
 竹の国、神々の御座す(おわす)日本に住まおうと・・・

 ドイツの我が家の庭では、長年「梅もどき」「桜もどき」として愛でて参りましたミラベルが、白い蕾を膨らませ、今や開花寸前の時を迎えております・・・・

 時は留まることなく、確実に過ぎ行き、全ては変化し続けています。
 
 それでも、花は咲き、人は決して一所には、常住し続けないものなのでしょうか・・・


 次回から、遅ればせながら、昨年の「飯塚小玕齋回顧展」のご報告と、3月21日から、パリのギャラリーMINGEIで開催されます「日本の竹工芸展、Mai`tres du bambou au Japon」のお話などさせて頂くつもりでおります。

 竹工芸のお話、再開致します。今しばらく、春に向かう日本で、皆さま心地よい時をお過ごし下さいますよう、お祈り致しております。
posted by mari at 10:49 | 2012年